本作の緊迫感を一気に高めるのが、かつて西部劇のロケ地として栄えたスパーン映画牧場のシークエンスです。クリフがヒッピー少女プッシーキャットを送り届けるこの牧場は、史実においてマンソン・ファミリーが実際にコミューンを形成し、不法占拠していた本拠地でした。
牧場の盲目のオーナーである80歳のジョージ・スパーン(ブルース・ダーン)と、彼を利用して住み着くヒッピー集団の異様な生活環境は、当時の警察資料や関係者の証言を克明に再現したものです。太陽の光が降り注ぐロサンゼルスの裏側に潜むヒッピームーブメントの暗部が、クリフの視線を通じてホラー映画のような不気味さで描かれています。
一方で、映画公開時に大きな波紋を呼んだのがブルース・リー描写論争の理由です。劇中、ブルース・リーが尊大に振る舞い、「カシアス・クレイ(モハメド・アリ)でも俺の手にかかれば身体障害者だ」と豪語した末、クリフによって車に叩きつけられるシーンに対し、実娘シャノン・リーや元弟子のカリーム・アブドゥル=ジャバーから「傲慢な戯画化であり、父への侮辱だ」と強い抗議の声が上がりました。これに対しタランティーノ監督は、当時の伝記本に記されたリーの自信に満ちた言動を引用しつつ、「クリフは第二次世界大戦で何人もの人間を素手で殺害した歴戦の兵士であり、スタントアクションと実戦殺傷能力の違いを描いたものだ」と反論。映画界におけるフィクションの境界線とレジェンドの描写を巡り、世界的な議論へと発展しました。