9回裏、アウトカウントは2つ。球場全体が総立ちとなり、歴史が塗り替えられる瞬間を誰もが確信していた。マウンドのダルビッシュ有が積み上げた26個のアウト。そのどれもが緻密に計算された芸術品だった。打席に立ったのはマーウィン・ゴンザレス。カウントはノーストライク・ワンボール。捕手のアジ・ピアジンスキーとの間で交わされたサインは、内角へ鋭く沈むフォーシームだった。
しかし、投じられた88球目の直球は僅かに甘く入った。センターへ抜けるグラウンダーのヒット。股下を通過した白球を見送る背番号11の表情には、落胆ではなく、どこか憑き物が落ちたような静かな笑みが浮かんでいた。あの一投に至るまでの配球組み立て、そしてなぜ土壇場でその球種を選択したのか。そこには直前の打者への配球パターンと、相手ベンチが仕掛けた狙い打ちの狙撃戦が存在したのだ。