尾道本通商店街のレトロなアーケードを歩いていると、シックな木目調の引き戸と控えめな暖簾が目を引きます。店名の「パン屋航路」は、尾道に一時居を構えた文豪・志賀直哉の代表作『暗夜行路』への敬意と遊び心から名付けられました。文学の香りが漂う街並みに見事に溶け込むこの空間は、2012年のオープン以来、瞬く間に尾道を代表するランドマークへと成長しました。
オーナーシェフの菅浩行氏は、神戸をはじめとする関西の有名ベーカリーで研鑽を積んだ気鋭の職人です。ハード系食事パンから繊細なヴィエノワズリー、親しみやすい惣菜パンに至るまで、パンごとに複数の自家製酵母や厳選した国産小麦を使い分ける職人技が光ります。「日常の中で誰もが気軽に買える価格でありながら、一口食べた瞬間に違いがわかる本物の味を届けたい」というシェフの哲学が、対面式に近いコンパクトな売り場に凝縮されています。
尾道本通商店街のパン屋という枠組みを軽々と超え、いまや広島県内はもちろん、瀬戸内しまなみ海道を巡るサイクリストや全国のブレッドフリークが目指す目的地となっている背景には、妥協なき素材選びと徹底した温度・発酵管理へのこだわりが存在しています。