惨劇の記憶は過去の遺物ではない。現代の日本において、人里近くへ出没するヒグマの報告は過去最多ペースを更新し続けており、地域住民の安全を揺るがす喫緊の課題となっている。地球温暖化に伴う山林環境の変化や、主食であるドングリ類の著しい凶作により、腹を空かせた個体が街中まで足を延ばす事態が常態化しているのだ。
これに対し、環境省や北海道庁をはじめとする行政機関は、危険個体の捕獲体制強化やハンター確保に向けた支援策を急ピッチで進めている。しかし、高齢化に伴い人と野生の緩衝帯だった里山が荒廃した現代日本において、獣の侵入を完全に防ぎきる特効薬は未だ見つかっていない。人と野生動物との境界線を巡る対立は、新たな段階へと突入している。