尾崎裕哉の声を初めて耳にした誰もが、一瞬、呼吸を止める。倍音を多く含んだハスキーかつ伸びやかな声質、語尾の切ない掠れ具合。そこには紛れもなく、尾崎豊が残した「15の夜」や「I LOVE YOU」で全世代の胸を突いたあの音響成分が宿っている。
だが、彼の中に父の直接的な記憶はほとんど存在しない。父が突然この世を去った後、母の尾崎繁美はメディアの狂騒から幼い我が子を守るため、アメリカ・ボストンへの移住を決意した。異国の地で多様な音楽に触れ、英語と日本語のバイリンガルとして育った環境が、後の彼のシンガーソングライターとしての視野を広く切り開くことになる。帰国後、ロックの衝動だけでなくJ-POPの繊細さを併せ持つボーカルスタイルが徐々に形作られていった。