鯉登の行動原理を語る上で欠かせないのが、上官である鶴見中尉に対する狂信的な忠誠心だ。かつて誘拐事件から救い出された過去を持つ鯉登にとって、鶴見は救世主であり、絶対的な絶対神にも等しい存在だった。ブロマイドを肌身離さず持ち歩き、声を聞くだけで動揺するその姿は、一見するとコミック的な愛憎劇に見える。
しかし物語が進むにつれて、その「救出劇」自体が鶴見によって精巧に仕組まれた狂言誘拐だった可能性が浮上する。敬愛する上官への揺るぎない信頼と、拭いきれない疑惑。この葛藤こそが、鯉登音之進という男の精神的な脱皮を促した。盲目的な従属から解き放たれ、部下たちの命を背負う真の指導者へと脱皮していくプロセスの切なさと気高さは、本編屈指の名場面として今も語り継がれている。