「物損事故のままでも、保険会社が病院の治療費を内払いで支払ってくれているから問題ない」と誤認している被害者は極めて危険です。民法上の損害賠償実務において、物損事故と人身事故の慰謝料の違いは天と地ほどの格差を生み出します。
結論から言えば、物損事故のまま示談を成立させた場合、精神的苦痛に対する「入通院慰謝料」および「後遺障害慰謝料」は1円も支払われません。日本の裁判実務において、物損に対する慰謝料は原則として否定されており、認められるのは愛着のあるペットの死亡や墓石の損壊など、極めて例外的な事案に限定されます。怪我を負いながら物損事故として放置することは、自らの正当な補償請求権を自ら放棄している行為と同義です。
とりわけ、自賠責保険と任意保険の治療費対応における力関係の変化は見過ごせません。任意保険会社が物損事故のまま治療費を支払っている状態は、あくまで「示談を円滑に進めるための一時的な事実上の対応」に過ぎません。保険会社の担当者が「怪我の報告がない軽微な物損事故ですから、治療は1ヶ月で終了してください」と一方的に治療費の打ち切りを通告してきた際、物損事故のままでは有効な反論が極めて難しくなります。