希死念慮を取り巻く最大の誤解は、「意志が弱いから死を考えるのだ」「もっと辛い状況でも頑張っている人がいる」という精神論です。これは医学的に完全な誤りです。
希死念慮は、極度の過労やストレスによって前頭葉の機能が低下し、感情のブレーキが利かなくなっている「脳の病変状態」です。骨折した人が自力で走れないのと同様に、疲弊しきった脳が前向きな思考を生み出せないのは純粋な生化学的現象に過ぎません。
もう一つの危険な誤解は、「『死にたい』と口にする人間は実際には死なない」という俗説です。自殺対策白書をはじめとする国内外の統計では、既遂者の約7割から8割が直前になんらかのサイン(言語的・非言語的)を発していたことが実証されています。「消えたい」という言葉を甘えや構ってアピールと片付けることは、当事者を決定的な孤立へと追い込む致命的な過失となります。