2010年代初頭、中国の富裕層の間で巻き起こったマスティフ・ブームは、世界のペット産業史において最も異様な狂騒劇の一つとして記憶されている。純血種と謳われた個体が1000万元から1500万元(日本円にして約2億〜3億円)で落札され、高級外車数十台の車列を組んで迎え入れられる異様な光景が連日のように報じられた。資本主義の急激な膨張が生み出した歪んだ富の象徴として、投機家たちは血眼になって巨犬を買い漁ったのだ。
しかし、バブルの終焉は残酷なほど早かった。過剰繁殖による遺伝的疾患の増加や交雑種の氾濫、さらには都市部での飼育トラブルの頻発により需要は一気に冷え込んだ。数億円で取引されていた犬たちが、わずか数年後には数千円で投げ売りされ、最悪の場合は食肉市場へ送られるという悲惨な事態まで招いた。投機マネーの道具と化した命の末路は、生命倫理を無視した無軌道なブームがいかに壊滅的な結果をもたらすかを物語っている。