本作を観た多くの観客が強い衝撃を受けるのが、「強迫性緊縛症候群」という耳慣れない病名です。実在する医学的診断名かと錯覚するほどリアルに描かれていますが、これは岩井俊二監督自身が生み出したオリジナルの架空疾患です。
劇中における「紐で縛る」という行為は、単なる性的フェティシズムや猟奇的な描写ではありません。萌宝が抱える「誰かと強く結びついていたい」「自分の存在がバラバラに解体してしまう不安を繋ぎ止めたい」という、痛切なまでの愛情飢餓とコミュニケーションの断絶が、紐という視覚的オブジェクトに凝縮されています。
由紀夫にとって書くことが世界との繋がりであるのに対し、萌宝には彼しか拠り所がありませんでした。物理的なロープの圧力によってしか自己の輪郭を確かめられない萌宝の姿は、他者との距離感に苦しむ人間の心理を恐ろしいほど克明に象徴しています。