塩屋埼灯台が全国的な知名度を誇る最大の理由の一つが、美空ひばり不朽の名曲『みだれ髪』(1987年12月リリース)の舞台であるという点です。当時、重度の特発性大腿骨頭壊死症と慢性肝炎により長期入院を余儀なくされ、歌手生命の危機に立たされていた美空ひばり。彼女の再起を期して作詞家の星野哲郎と作曲家の船村徹が手がけたのが、この塩屋の岬を舞台にした哀愁漂う演歌でした。
星野哲郎は作詞にあたり、実際にいわき市の薄磯海岸や塩屋埼の断崖に立ち、激しく打ち寄せる波浪と吹き付ける潮風に女性の激しい情念を重ね合わせました。歌詞に登場する「塩屋の岬」「みだれ髪」「薄磯」という言葉は、厳しい自然環境と人間の切ない心情を見事に調和させています。翌1988年4月、東京ドームでの伝説的な復活コンサート『不死鳥 美空ひばり in TOKYO DOME』において、彼女が渾身の絶唱を披露したことで、塩屋埼灯台の名は日本中の人々の胸に深く刻み込まれました。
現在、灯台の登り口広場には「永遠のひばり像」「みだれ髪 歌碑」「遺影碑」が建立されています。特筆すべきは、遺影碑の前に立つとセンサーが反応し、澄み切った美空ひばりの歌声と『みだれ髪』のメロディが自動で流れ出す仕掛けです。太平洋の潮騒と重なり合うその音色は、訪れるファンの涙を誘い続けています。単なる観光名所にとどまらず、昭和歌謡の金字塔を肌で感じる文化的な聖地として機能しています。