なぜ専門性の高い言語聴覚士の給料は一定のラインで頭打ちになってしまうのか。関係者や現場取材から浮かび上がるのは、個人のスキル不足ではなく、医療保険・介護保険の診療報酬体系に組み込まれた構造的限界です。
リハビリテーション専門職が生み出す病院の収益は、公的に定められた「リハビリテーション実施料」によって厳密に規定されています。医療保険上、療法士1人が1日に請求できる疾患別リハビリテーションの単位数は原則18単位(1単位=20分、計6時間)、最大でも24単位(計8時間)と厳格に定められています。1単位あたりの点数は疾患や施設基準によって異なりますが、仮に1単位180点(1,800円)で満額20単位を算定したとしても、1人の言語聴覚士が1日に生み出せる診療報酬額は3万6,000円、月に21日稼働しても約75万円が売上の上限値です。
病院や施設はこの売上から、療法士本人の給与だけでなく、施設の維持費、減価償却費、間接部門(事務や看護師、清掃スタッフ)の人件費、法人の利益を捻出しなければなりません。つまり、どれほど卓越した臨床技術を持つ言語聴覚士であっても、1日で生み出せる収益の器そのものが制度的に固定されている以上、一般企業の営業職のように「売上を3倍にして給料を大幅に増やす」という仕組みが原理的に成り立たないのです。
定期昇給の少なさも不満を増幅させています。民間医療法人の年間昇給額は月額1,000円〜3,000円程度にとどまる例が珍しくありません。10年勤務しても基本給のベースアップが月2万〜3万円程度にとどまるため、「キャリアを重ねるほど責任と業務量ばかりが増え、手取りが増えない」という閉塞感を生み出す元凶となっています。