患者が窓口で最も直感的に不公平感を抱きやすいのが、「お薬手帳の持参有無による点数の格差」だ。薬局で「手帳を持参していますか?」と尋ねられ、「忘れました」と答えた瞬間、明細書の点数は高額な区分へと切り替わる。一見すると「手帳を持ってこない不届き者への罰金」のように映るが、国の制度設計には明確な算定要件と行動経済学的なインセンティブが埋め込まれている。
現行の服薬管理指導料算定要件において、最も低い点数(患者にとって自己負担が軽くなる区分)を適用するためには、原則として「過去3月以内に再度同じ調剤薬局を利用した実績」があり、かつ「処方箋受付時にお薬手帳を持参・提示していること」が必須条件と定められている。この条件を満たさない場合、すなわち服薬管理指導料お薬手帳なしの状態や、初めて受診する薬局、あるいは服薬管理指導料3月以内の要件から外れて前回来局から3ヶ月を超えている場合は、より点数の高い区分が算定される。
厚生労働省がこの格差を設けている理由は極めて合理的だ。直近3ヶ月以内に訪れた薬局であれば、患者の基礎データや常用薬の情報が直近の状態で薬歴に残っている。そこに最新の医療機関の処方が記載された手帳が提示されれば、薬剤師は短時間で正確に相互作用や重複投与の有無をスクリーニングできる。一方、服薬管理指導料手帳持参忘れが発生した場合や初回来局時、前回来局から長期間経過しているケースでは、患者が現在他院で何を処方されているか、市販薬やサプリメントをどう併用しているかをゼロから聞き取る「問診」と「裏取り」が必要になり、薬剤師に生じる確認負荷と医療事故リスクが跳ね上がる。つまり、手帳持参による割引は、情報提供に協力した患者に対する還元であり、持参忘れによる高額化はリスク確認の手間に対する正当な対価という建前になっている。