「ID野球」という言葉は、野村克也がヤクルト監督時代に掲げたスローガンだ。IDは「Import Data」の略とされるが、野村自身が後年繰り返し語ったのは「データを集めるだけではダメ。それをどう解釈し、どう使うかが重要」という点だった。
野村のID野球の核心は、配球理論と心理戦にある。投手の癖、打者の反応、カウントごとの傾向、相手ベンチの動き——そうした「数字に表れない情報」を徹底的に収集し、試合中の一球に反映させる。これは2026年現在のデータ野球、いわゆる「アナリティクス」の先駆けとも言えるが、野村のアプローチはもっと泥臭く、人間臭い。
野村は自著でこう述べている。「データは過去の結果であって、未来を保証するものではない。大事なのはデータの裏に隠れた人間の心理を読むことだ」——この一節は、現代のビジネスリーダーにも頻繁に引用されている。
ヤクルト監督時代の1990年代、日本シリーズで西武ライオンズやオリックス・ブルーウェーブといった強豪を破った采配は、まさにこの「人間心理の情報化」の結晶だった。特に1993年の日本シリーズ第7戦、古田敦也のリードで西武打線を封じた試合は、ID野球の最高傑作として今も語り草だ。