メディアでは「水素社会の到来」が一括りに語られがちですが、水素キャリアには主に「液化水素(LH2)」「アンモニア(NH3)」「有機ハイドライド(MCH)」の3つの有力な選択肢が存在します。ネット上の言説では「アンモニアの方が安くて扱いやすいのだから、極低温の液化水素船など不要ではないか」という批判的な論調も見受けられます。
しかし、これはエネルギー利用の「最終形態」を見落とした誤解です。アンモニアは既存の輸送網を使える利点がある反面、毒性があり、燃料電池車(FCV)や半導体製造などの高純度水素として利用するには再転換(クラッキング)のための膨大なエネルギーロスとコストが発生します。一方、液化水素は極低温技術への初期投資こそ重いものの、気化させるだけで即座に超高純度な水素が得られるという圧倒的な純度・効率面の強みを持っています。
したがって、火力発電の混焼にはアンモニア、モビリティや都市ガス転換、高精度な産業用途には液化水素という「棲み分け」が業界の標準コンセンサスとなっており、液化水素運搬船の重要性が損なわれることはありません。