日本の駅弁の原点は、素朴な「おにぎり」でした。1885年7月16日に宇都宮駅で販売された最初の駅弁は、ごま塩をまぶしたおにぎり2個にたくあん2切れを添え、竹の皮で包んだ極めてシンプルなものでした。当時の価格は5銭。当時の物価水準(巡査の初任給が月給8〜9円程度)から換算すると、現在の価値でおよそ数百円から千円前後に相当し、長旅に出る乗客にとって手軽で貴重な栄養源でした。
竹の皮は通気性と殺菌作用に優れており、冷めてもご飯の水分を適度に保つ知恵が凝縮されていました。この簡潔な形態こそが、その後の日本の折詰弁当文化の礎となったのです。
なお、鉄道史や食文化史の研究においては、宇都宮駅発祥説のほかにも複数の異説が存在します。例えば、1877年(明治10年)の神戸駅や、1883年(明治16年)の上野駅ですでに握り飯やサンドイッチが売られていたという記録もあります。しかし、「駅構内で組織的かつ公式に販売された記録が明確に残っている」という点において、現在でも宇都宮駅が公式な発祥の地として広く認められています。