実写映画と原作漫画を比較すると、作品の根底に流れるトーンやテーマ性には顕著な差異が存在します。この乖離こそが、原作者が抱いた違和感の根源でもありました。
佐藤秀峰氏による原作漫画『海猿』(小学館)は、徹底した現場取材に基づき、海上保安官たちの人間臭い弱さ、組織の不条理、海難救助の現場で直面する救えない命への絶望やPTSD(心的外傷後ストレス障害)など、極めて重厚でリアルな人間ドラマを描写しています。主人公・仙崎大輔も決して無敵のヒーローではなく、死への恐怖に震え、己の無力さに苦悩する青年として造形されていました。
一方でフジテレビが主導した実写映画版は、大衆受けを徹底的に追求した「ハリウッド型パニック・エンターテインメント」へと大胆に舵を切りました。「チェック・イン(互いの命を預け合うバディ精神)」の熱い叫び、加藤あい演じる伊沢環菜とのドラマチックな恋愛模様、そして最後には必ず仲間を救い出す超人的なヒーロー像。このドラマツルギーは観客の感情を激しく揺さぶり、記録的な大ヒットを生み出しました。
しかし、エンターテインメントとしてのカタルシスを優先するあまり、原作が持っていた「海上保安庁という組織の闇」や「人間の生々しいエゴ」は大幅に脱色されました。この「リアリズムの告発劇」から「王道ヒーロー活劇」への劇的な改変に対する演出スタンスの相違が、製作サイドと原作者の間に潜在的な溝を深める一因となっていたことは否めません。