「中華そば萬福」の暖簾をくぐり、運ばれてきた丼を目にして誰もがまず目を奪われるのが、具材の中央に美しく添えられた薄焼きの「三角玉子焼き」です。一般的なラーメンのトッピングといえば煮玉子や茹で玉子が定番ですが、なぜ萬福では丁寧に焼き上げられた三角形の薄焼き玉子が乗っているのでしょうか。
その背景を紐解くと、初代店主の細やかな美意識と時代背景に行き当たります。創業当時、玉子は現在よりもはるかに貴重な高級食材でした。彩り豊かな冷やし中華の錦糸卵から着想を得つつ、「温かい中華そばにも華やかな彩りと特別感を添えたい」というおもてなしの心から、丁寧に焼き目をつけた玉子を対角線上に切り分けた三角形のトッピングが考案されたと伝えられています。
スープは、豚骨と鶏ガラをベースに香味野菜をじっくり煮込み、極めて澄んだ琥珀色の清湯(チンタン)仕立て。ひと口すすると、雑味のない動物系の穏やかな旨味と、キレのある醤油ダレの芳醇な風味がじんわりと口いっぱいに広がります。この滋味深いスープに、やや固めに茹で上げられた喉越しの良い細麺、脂身の少ないクラシカルなモモ肉チャーシュー、小松菜、細切りのメンマ、そして出汁を含んだ三角玉子焼きが見事な調和を生み出しています。