一見奇妙な『時計じかけのオレンジ』というタイトルの意味には、バージェスが抱いていた強烈な文明批判が刻まれています。このフレーズは、ロンドンの下町で使われていた古いコックニーのスラング「as queer as a clockwork orange(時計仕掛けのオレンジのように狂っている/奇妙だ)」に由来します。
オレンジという「みずみずしく有機的で、甘みと生命感に満ちた自然の果実」に、ネジやゼンマイといった「機械の仕掛け」を無理やり組み込む行為――それはまさに、生きた人間に国家が洗脳や条件反射を施し、ロボットのように善行を強制するグロテスクさを告発しています。
どれほど凶悪な犯罪者であっても、自らの意思で「悪」を選ぶ余地が残されていなければ、人間としての尊厳は成立しないのではないか。強制された善よりも、葛藤の末に選択される善にこそ価値があるのではないか。この哲学的問いかけこそが、本作を単なるパルプ・フィクションと一線を画す不朽の文学たらしめている核心です。