本作の物語構造を支える骨格は、立花瀧と宮水三葉が互いの身体を通して発する言葉の距離感にあります。序盤、ノートや机、あるいはスマートフォンに残されるメッセージは、互いの生活を侵食し合うことへの苛立ちと戸惑いに満ちていました。
ノートに殴り書きされた「お前は誰だ?」「特別任務?」という問いかけは、見知らぬ他者への警戒心から始まります。しかし、東京と糸守という物理的な距離、そして3年の時間差を超えて入れ替わりを繰り返すうちに、その言葉は徐々に相手の痛みを分かち合う親愛の情へと変質していきました。
特に印象的なのは、飛騨の山中で瀧が真実に直面した瞬間のモノローグです。彗星の衝突によって町ごと失われていたという絶望的な事実を前に、瀧は自身の記憶すら疑わざるを得なくなります。そこで発せられた「言おうと思ったんだ。お前が世界のどこにいても、俺が必ず、もう一度逢いに行くって」という誓いは、運命の不条理に対する最初の宣戦布告でした。新海監督が当時の公式インタビューで「言葉によってしか結びつけないふたりを描きたかった」と語った通り、この台詞は空間と時間の歪みを乗り越えようとする強い意志の表出となっています。
一方の三葉もまた、東京の瀧に会いに行った日の苦い記憶を抱えながら、彗星の夜を迎えます。祖母の一葉から教わった「糸を繋ぐことも結び、人を繋ぐことも結び、時間が流れることも結び」という神社の教えが、やがて瀧との繋がりを信じ抜く精神的な支柱となっていきます。言葉そのものが組み紐のように編み合わされ、一度は途切れても再び結び直される構造が、脚本の随所に見事に配置されています。