映画のクライマックスは、退学から数か月後、ジャズクラブで偶然再会したフレッチャーから「JVCジャズフェスティバルのステージでドラムを叩かないか」と誘われる場面から始まります。フレッチャーは自身の行き過ぎた指導を理由に音楽院を解雇されたと語り、「私の役目は限界を超えさせることだった」と指導理念を明かします。
しかし、これはフレッチャーが仕掛けた冷酷な復讐の罠でした。自分を告発したのがアンドリューだと知っていたフレッチャーは、ステージ本番でアンドリューに渡していない未練習の楽曲を演奏させ、大観衆と業界関係者の前で大恥をかかせます。公衆の面前でプライドを粉砕されたアンドリューは、一度は絶望して舞台袖へ逃げ出しました。
ここから映画史に残る怒涛の逆転劇が幕を開けます。舞台袖で父親に抱きしめられたアンドリューは、突如としてドラムセットへ引き返し、フレッチャーの静止を無視して劇中歌『キャラバン(Caravan)』のカウントを自ら刻み始めます。アンドリューが完全にバンドの主導権を奪い、凄まじいドラムソロを展開していくなかで、フレッチャーの表情は憎悪から驚愕、そして狂気じみた歓喜へと変化していきます。
ラスト数分間の超絶技巧ドラムソロにおいて、二人は言葉を超えた視線を交わし合います。フレッチャーがシンバルを調整し、二人が完璧なタイミングでフィニッシュを決めた瞬間に暗転する結末。このシーンは一見すると「指導者をねじ伏せた弟子の勝利」に見えますが、本質的にはアンドリューが人間性を捨ててフレッチャーの求める狂気の領域へと自ら飛び込んだ瞬間を描いています。