狂言和泉流の宗家継承者として厳格な稽古を重ねてきた和泉元彌さんは、狂言界の枠を飛び越えてテレビドラマやバラエティ番組、大河ドラマ『北条時宗』の主演を務めるなど、かつてないメディアミックスで一世を風靡しました。しかし、その突出したスター性と多忙を極めるスケジュール管理が、やがて大きな軋轢を生むことになります。
世間を最も驚かせたのが、2002年7月に発生したダブルブッキング騒動です。岐阜県での狂言公演と東京都内でのプロレス興行の時間が重複し、元彌さんがヘリコプターや飛行機をチャーターして日本列島を大移動。全国ニュースで中継される事態となりました。過密なスケジュール進行やメディアへの露出姿勢を巡り、伝統芸能の保守派や能楽協会との関係が悪化。結果として能楽協会から退会処分を受けるなど、芸能人生最大の危機に直面しました。
しかし、元彌さんは孤立無援の状況下でも狂言への情熱を失いませんでした。自主公演を中心に全国を地道に回り、古典芸能としての狂言の魅力を愚直に伝え続けることで、実力派狂言師としての地歩を再構築。逆境の中で見せた舞台への執念が、現在の揺るぎない評価へと繋がっています。