華々しい躍進の陰には、知られざる長い下積み時代が存在する。10代後半から小劇場や独立系映画の世界に身を投じた彼女は、どれほど小さな役であっても徹底的に役に憑依する姿勢を崩さなかった。日常の繊細な心の揺れ動きを描くヒューマンドラマにおいて、目線の泳ぎや指先のわずかな震えで登場人物の葛藤を表現するスキルは、この時代に培われたものだ。
転機となったのは、数年前に公開された自主制作の単館映画だった。低予算ながらも人間の業を真っ正面から描いたその作品で、彼女の見せた凄絶なクライマックスシーンは、日本映画監督協会の関係者や映画批評家たちの間で大きな話題を呼んだ。「フレームのなかで嘘をつかない女優」。そう評価されたことで、インディーズの隠れた実力派から、全国規模のメジャー作品へと一気に扉が開かれることになったのだ。