漢字に「春」が入っていることから「鰆の旬は間違いなく春」と思われがちですが、実は地域によって旬の時期と求められる味わいが異なるという興味深い事実があります。この違いは、日本の東西における食文化と魚の回遊ルートに深く起因しています。
関西地方(特に瀬戸内海周辺や京都)では、古くからの伝統通り4月〜5月の「春」が旬とされます。この時期の鰆は産卵を控えており、身が柔らかく淡白で上品な味わいが特徴です。また、この時期ならではの真子(卵巣)や白子も珍重され、京料理をはじめとする繊細な和食の世界で春の風物詩として愛されてきました。
対照的なのが関東地方です。関東では12月〜2月の真冬に獲れる「寒鰆(かんざわら)」こそが至高の旬と位置づけられています。冬の冷たい外海を回遊する鰆は、厳しい寒さを乗り越えるために全身にびっしりと上質な脂を蓄えます。その脂乗りはマグロの中トロにも匹敵すると評され、刺身や塩焼きで濃厚なコクを楽しむ関東の食文化と見事に合致します。
「あっさりとした春の味わいを楽しむ関西」と、「とろけるような濃厚な脂を堪能する関東」。どちらが正しいということではなく、季節の移り変わりとともに異なる美味しさを楽しめる点こそが、鰆という魚が持つ奥深い魅力です。