作品の前半から中盤にかけて描かれる「八雲と助六篇」は、まさに息を呑むようなドロドロの愛憎劇の連続です。菊比古に狂おしいほどの愛情と依存を向けるみよ吉と、落語の道に生きるために彼女を突き放す菊比古。そして、傷ついたみよ吉を受け入れ、共に破滅への道を歩んでいく助六。この3人の関係性は、一般的な三角関係の枠を完全に超えています。
みよ吉の菊比古に対する執着は凄まじく、捨てられた恨みを抱えながら助六と身を寄せ合い、やがて子供(小夏)をもうけてもなお、その心は菊比古に囚われ続けます。一方で、菊比古にとっても助六は唯一無二の親友であり、芸の上での最大のライバルであり、魂の片割れとも呼べる存在でした。みよ吉から見れば、「菊比古が本当に愛し、執着しているのは自分ではなく助六(そして落語)なのではないか」という嫉妬と絶望が常に渦巻いていました。
男女の情愛、同性間の精神的執着、そして芸への狂信が複雑に絡み合い、互いの首を絞め合っていく展開は、見る者に強烈な心理的負荷を与えます。この逃げ場のない共依存関係こそが、「ドロドロしていて胸糞が悪い」と感じさせる大きな理由です。