病魔が彼の体を蝕み始めたのは、過密なスケジュールを精力的にこなしていた最中のことだった。脳淋巴腫という難病との戦いは、想像を絶する過酷さだったという。しかし、病床にあっても松方弘樹が失わなかったのは、役者としての気概と周囲への深い気配りだった。
病院を見舞ったごく一部の親しい関係者は、衰弱していく体の中でも鋭さを失わない彼の眼光に驚かされた。「早く治して、また時代劇の現場に戻りたい」「殺陣を切りたいんだ」。管に繋がれながらも、口をついて出るのは常に芝居のことばかりだったという。見舞いに訪れた若手俳優やスタッフが涙を流すと、逆に「泣くなよ、俺はまだ負けてないぞ」と笑ってみせた。
主治医や看護師に対しても感謝の言葉を絶やさず、最期の瞬間まで周囲に気を使わせないよう振る舞った。関係者が明かす最後のメッセージは、「役者は客を喜ばせてナンボ。しめっぽい顔は見せるな」という、どこまでもエンターテイナーとしての誇りに満ちたものだった。その壮烈な生き様こそ、昭和スターの真骨頂だったと言える。