中森明菜が残した数々の伝説的なステージ衣装の中でも、特に日本歌謡史および服飾史に刻まれるべき傑作を振り返ると、その先鋭性と時代を先取りする感覚に驚かされます。
1986年に発表され日本レコード大賞を受賞した『DESIRE -情熱-』の衣装は、その最高峰と言えます。伝統的な和服を大胆にアレンジし、洋風のハイヒールや帯締めに見立てたベルト、さらにはボブカットのウィッグを組み合わせたスタイルは、日本中のお茶の間に衝撃を与えました。京都の老舗呉服店から反物を取り寄せ、型紙の段階から本人が細かくハサミを入れる指示を出したという逸話は、単なる奇抜狙いではなく、和の様式美とロックなビートを融合させるための必然的な計算でした。
続いて1988年の『TATTOO』では、当時まだアンダーグラウンドやクラブカルチャーの先端に過ぎなかったボディコンドレスをいち早く地上波のプライムタイムに持ち込みました。ハイレグ気味のタイトなミニ丈にソバージュヘア、大胆なアクセサリーの重ね付けという出で立ちは、女性の持つ力強い官能性をアピールし、後のバブル期のファッションシーンを数年先取りする決定打となりました。
また、1987年の『難破船』で見せた漆黒のロングドレスや、儚く揺れるベルベット素材のドレープは、歌唱中の震える指先や零れ落ちる涙を最大限に際立たせるための引き算の美学でした。華美な装飾を削ぎ落とし、服と歌い手が一体となって哀愁を具現化するアプローチは、現在の舞台芸術の観点から見ても傑出しています。