大五郎といえば、首をわずかに傾げて父を呼ぶ「ちゃーん」というフレーズが有名です。しかし、このセリフの背景には意外な事実が存在します。
実は、小池一夫氏の原作漫画には「ちゃーん」というセリフは一度も登場しません。原作の大五郎は父を「父(とと)」または「父上(ちちうえ)」と呼んでおり、台詞そのものが非常に少ない寡黙な幼児として描かれています。
この名セリフが生まれた現場は、1973年の日本テレビ版ドラマの撮影初頭でした。当時わずか3歳だった西川和孝氏が、台本の「父上(ちちうえ)」をうまく発音できず、舌足らずに「ちゃーん(父ちゃん)」と呼んでしまったことがきっかけです。これを聞いた主演の萬屋錦之介氏とスタッフ陣が「過酷な旅路の中にある、幼児らしい愛嬌と親子の情愛が際立つ」と絶賛し、正式なセリフとして採用されたという舞台裏があります。
また、大五郎というキャラクター自体のルーツについて、原作者の小池一夫氏は生前のインタビューで次のように語っています。執筆当時、小池氏が母親から譲り受けた幼児姿の博多人形の凛とした佇まいに強く惹かれ、「この子を主人公にした、死線の中を生きる物語を描きたい」と着想したのが『子連れ狼』の原点でした。作画の小島剛夕氏による、無垢でありながら時に「刺客の目」を見せる大五郎のビジュアルは、こうして完成しました。