『HERO』の成功以降、善人役のオファーが殺到した小日向だが、彼の真の恐ろしさは「笑顔のまま人を裏切る」怪演にある。その真骨頂を見せつけたのが、北野武監督のバイオレンス映画『アウトレイジ ビヨンド』における悪徳刑事・片岡役だ。
ヤクザ組織同士を巧みな舌先三寸で反目させ、血で血を洗う抗争へと誘導していく片岡。暴力的な恫喝ではなく、柔らかな口調と薄ら笑いを浮かべながら破滅へと引きずり込むその姿は、本職のヤクザ以上の冷酷さと底知れぬ恐怖をスクリーンに焼き付けた。本格サスペンスやクライムノベルの実写化において、小日向の存在は作品全体のサスペンス濃度を一気に引き上げる劇薬となった。
「この人は本当に味方なのか、それとも黒幕なのか」。観客にそう疑わせるだけでサスペンスが成立してしまう俳優は、現代の日本において極めて稀有である。