ニュース速報で「四国地方で激しい雨」と流れると、多くの人が「これでダムも一気に満水になったはずだ」と考えがちです。しかし、ここに水文学的な大きな誤解と盲点が存在します。建築・環境都市工学の観点からも指摘されている通り、ダムの貯水率推移には次の3つの障壁があります。
1. 乾いた山肌の「スポンジ現象」(初期損失)
猛暑と少雨が続いた流域の山林土壌は極限まで乾燥しています。そこに最初の雨が降っても、雨水の大半は砂漠化した土壌の隙間に吸い込まれ(初期損失)、地下水脈を潤すだけで終わります。ダム湖に濁水として流れ込む「表面流出」が本格化するまでには、一定以上の積算雨量(目安として50〜100ミリ以上)が連続して降り注ぐ必要があるのです。
2. 降雨エリアのミスマッチ
徳島市街や高知市街で豪雨が観測されたとしても、早明浦ダムの集水域(高知県長岡郡本山町・大川村などの山間部)に雨が降らなければ、ダムの水位は1センチたりとも上がりません。大渡ダム(仁淀川水系)や愛知県の宇連ダムなど他地域の事例でも見られるように、「県内のどこかで降った雨」と「ダム流域にピンポイントで降った雨」の混同が、ネット上の楽観論を生む温床となっています。
3. 下流への「渇水補給放流」の継続
ダムは単に水を貯めるだけの器ではありません。吉野川下流の生態系保全や既得水利権(徳島県側の農業・上水道)、塩害防止のために、平常時であっても毎秒一定量の水を放流ゲートやバルブから流し続けなければなりません。雨による流入量よりも下流への義務放流(補給量)が上回っていれば、雨が降っている最中であっても貯水率の計算値が減少することは珍しくないのです。