インターネット上の掲示板やSNSでは、「ファンが推しと結婚した奇跡のシンデレラストーリー」として語られることの多い阿部サダヲ夫妻。しかし、これを単なる「幸運なファンの成功譚」と捉えるのは致命的な誤解です。
通常、ファンとアイドルの恋愛関係は、偶像(ファンタジー)が現実の生々しい生活感によって打ち砕かれた瞬間に破綻を迎えます。家事の分担、金銭感覚のズレ、加齢による容姿の変化など、現実の生活は夢を見させてくれません。それにもかかわらず、なぜ二人の結婚は四半世紀を超えてなお強固であり続けるのか。
その真相は、妻が阿部サダヲを「雲の上の偶像」として消費するのではなく、最初から「欠陥を抱えた生身の人間」として観察していた点にあります。彼女が惚れ込んだのは、スポットライトを浴びるスターではなく、誰もいない稽古場で苦悩する一人の男の業でした。だからこそ、「私と結婚しなきゃダメになる」という言葉は、救済の約束であり、生活の共同経営者としての宣誓だったのです。熱烈なファンでありながら、誰よりも客観的な批評家であり続けたこと――これこそが、ネットの美談の裏に隠された成功の本質です。