『統帥綱領』を理解する上で欠かせない比較対象が、同じく陸軍大学校などで教材として用いられた『統帥参考』である。前者が指揮運用の理念と原理原則を提示する「ドクトリン」であったのに対し、後者は具体的な戦例や状況判断のノウハウを凝縮した「応用実務書」という位置づけにあった。
大日本帝国陸軍は、この二つの教範を両輪として将校教育を進めた。しかし、硬直化したマニュアル主義が現場を支配した結果、状況の変化に応じた柔軟な戦略変更が不能となった。組織が肥大化し、セクショナリズムが蔓延したとき、理念は容易に教条主義へと変貌する。これこそが、太平洋戦争への道筋を定着させた構造的欠陥にほかならない。