都内には星の数ほどのベーカリーが存在し、海外の有名ブランド店や最先端の技術を誇るブティックもひしめいている。にもかかわらず、片道1時間以上をかけて二宮を目指す人が後を絶たないのはなぜか。
その答えは、便利さや効率性と引き換えに私たちが失ってしまった「生の質感」にある。デジタル化が極限まで進んだ現代社会だからこそ、手作業の温もり、木の燃える匂い、そしてその土地の空気とともに噛み締めるパンの味わいが、現代人の五感を激しく揺さぶるのだ。ここを訪れる行為自体が、過密な都市生活に対するささやかなエスケープ(脱出)となっている。