エンターテインメントの領域でも、言語翻訳の真価が問われている。Netflixで世界的に配信されているフィリピン映画の名作『ローサは密告された』は、マニラの路地裏で生きる人々のリアルな会話と緊迫感を捉えた作品だ。スクリーン上で交わされるストリートタガログ語やタグリッシュ(タガログ語と英語の混成語)は、標準的な辞書通りに訳しても作品の熱量を伝えることはできない。
映画字幕の制作現場では、登場人物の置かれた環境やスラングの裏にある感情の起伏を拾い上げる作業が続けられている。「文法的には正しいが、人間味がない」という従来の自動翻訳の限界を破るヒントは、こうしたリアルなカルチャーコンテンツのローカライズ現場にこそ隠されている。