歌舞伎界の屋台骨として多忙を極めていた2013年夏、定期健診の精密検査で膵臓がんが判明します。自覚症状がほとんどない中での告知でしたが、三津五郎は動じることなく「必ず治して舞台に戻る」と強い決意を周囲に語りました。
同年9月に膵臓の一部と脾臓の摘出手術を受け、過酷な抗がん剤治療とリハビリテーションに専念。その闘病生活は想像を絶するものでしたが、役者としての誇りと舞台への情熱が彼を奮い立たせました。そして2014年4月、歌舞伎座『鳳凰祭四月大歌舞伎』の舞踊劇「寿靭猿」で奇跡的な舞台復帰を果たします。花道に姿を現した瞬間、場内は割れんばかりの拍手と歓声に包まれました。
しかし、病魔は容赦なく名優の体を蝕んでいました。同年秋に肺への転移が見つかり、再び休養を余儀なくされます。自宅療養と再入院を重ねながらも台本を手放さず、再起を信じて治療を続けましたが、2015年2月21日、都内の病院で静かに息を引き取りました。59歳という、芸道が最も脂の乗る時期での旅立ちでした。