1981年10月。松田聖子はすでに「青い珊瑚礁」や「チェリーブラッサム」などの大ヒットを飛ばし、トップアイドルとしての地位を不動のものにしていた。しかし、この「風立ちぬ」の登場は、それまでの彼女のイメージを大きく変えることになる。明るく元気な「聖子ちゃんカット」の少女から、少し大人びた、センチメンタルな表情を持つアーティストへの脱皮。この曲はその象徴だった。
当時の歌謡界において、アイドルの楽曲は分かりやすいキャッチーさが求められるのが常だった。しかし、本作が提示した複雑なコード進行と叙情的な世界観は、それまでの「アイドル歌謡」の限界を軽々と突破してみせた。リスナーは彼女の歌声に、単なる可愛らしさではなく、深い文学性と音楽性を感じ取ったのである。