全身麻酔を検討する際、患者が最も直視しなければならない現実が、医療機関ごとの「設備と人員の圧倒的な格差」です。
一般の読者にはあまり知られていませんが、日本全国の歯科医師約10万人の中で、厚生労働省認可の専門医資格である日本歯科麻酔学会専門医の資格を保持している歯科医師は、わずか数百人規模(認定医を含めても極めて少数)に過ぎません。その大半は大学病院、総合病院、あるいは障害者歯科センターなどの高次医療機関に所属しています。
街の一般クリニックのウェブサイトに「全身麻酔対応」「眠っている間に治療完了」と華々しく宣伝されていても、その実態は以下の2つのパターンに大別されます。
- 麻酔専門医常駐型・完全チーム制クリニック:
麻酔科出身の日本歯科麻酔学会専門医が常時勤務し、最新の生体情報モニター、生体除細動器(AED)、輪状甲状膜切開キットやビデオ喉頭鏡などの緊急挿管器具、酸素配管設備を完備。治療を行う歯科医と麻酔医が完全に分業されている施設。 - 出張(非常勤バイト)麻酔医呼び出し型クリニック:
普段は麻酔科医がおらず、全身麻酔の患者が入った日だけ外部からフリーランスや大学院生の麻酔担当者を呼ぶ施設。救急カートの薬品期限が切れていたり、スタッフが緊急時の心肺蘇生プロトコルに習熟していなかったりするリスクが潜在する。
一般クリニックで日帰り全身麻酔を受ける場合、万が一のアナフィラキシーショックや悪性高熱症、換気不能(Cannot Ventilate, Cannot Intubate: CVCI)が発生した際に、「どの近隣三次救急病院と連携協定を結んでいるか」「搬送までに何分かかるか」が文字通り生死の分岐点となります。大学病院であれば、院内の麻酔科、救命救急科、ICUとの連携が数分で機能しますが、単独のクリニックでは外部救急隊の到着を待つしかありません。評判や口コミの良さだけでなく、バックアップ体制の物理的距離を確認することが極めて重要です。