平成22年(2010年)という時代は、後世の歴史家からも「日本の科学技術への誇りと、社会構造の不安が激しく交錯した年」と位置づけられています。当時のニュース映像や新聞一面を飾った出来事を検証すると、単なる過去の記録にとどまらない深い文脈が浮かび上がってきます。
もっとも国民を熱狂させたのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ」の地球帰還でした。2010年6月13日、7年間・約60億キロメートルにおよぶ過酷な旅路を経て、機体は大気圏突入によって光り輝く火球となり消滅しながらも、小惑星イトカワの微粒子を収めたカプセルを豪州ウーメラ砂漠に投下しました。通信途絶やエンジン故障などの絶体絶命の危機を現場エンジニアの機転で克服したドラマは、当時の特番インタビューや手記において「絶対に諦めない現場の執念が生んだ奇跡」と語られ、閉塞感に苛まれていた日本社会に絶大な感動と勇気を与えました。
一方で、内政と外交は前例のない混乱に直面していました。政権交代によって誕生した民主党政権下で、普天間基地移設問題をめぐる迷走から鳩山由紀夫首相が電撃辞任し、6月に菅直人内閣が発足。さらに9月には尖閣諸島沖で中国漁船衝突事件が発生し、海上保安庁の巡視船が撮影した衝突映像が動画共有サイトYouTubeに流出する「Sengoku38事件」へと発展しました。国家機密の管理体制や領土問題の現実が白日の下にさらされ、従来のテレビ・新聞主導の報道体制からインターネットを通じた情報拡散への力点移動を決定づけた契機となりました。
さらに文化・スポーツ面では、サッカー南アフリカワールドカップでの日本代表ベスト16進出(本田圭佑選手らの躍動)や、初代iPadの国内販売開始によるタブレット端末ブームの幕開けなど、ライフスタイルが劇的にデジタル化へ舵を切った年でもありました。