路線バスに設置されている両替機で一万円札や五千円札といった高額紙幣が使えない最大の要因は、「車載できる釣銭(つり銭準備金)の物理的な制約」にあります。もし一万円札の両替を認めた場合、1回の両替につき千円札9枚と小銭を払い出す必要があります。仮に朝の通勤ラッシュ時に数人の乗客が連続して一万円札を投入すれば、運賃箱内の千円札ストックは瞬く間に枯渇してしまいます。
路線バスの運賃箱は限られた運転席脇のスペースに収まるよう設計されており、内部に格納できる紙幣の枚数は数百枚程度が限界です。さらに、大量の現金を車内に常時保管することは、バスジャックや車内盗難といった防犯上の重大なリスクを招きます。また、高額紙幣の識別センサーや多量の紙幣をプールするユニットを追加すれば、機器自体が巨大化・重量化し、運転士の視界や乗降時の通路を塞いでしまうという構造上の問題も無視できません。
加えて、発行以降も未対応の車両が散見される「新紙幣(千円札・五千円札・一万円札)および新500円玉(バイカラー・クラッド貨)」への対応遅れには、事業者側の深刻なコスト問題が存在します。識別センサーのプログラム書き換えやユニット自体の交換には莫大な費用がかかるため、慢性的な赤字に悩む地方のバス事業者ほど、既存機器の更新に踏み切れないジレンマを抱えているのが実情です。