現在、『記憶の固執の崩壊』はアメリカ・フロリダ州セントピーターズバーグにある「サルバドール・ダリ美術館(The Dalí Museum)」の重要コレクションとして常設展示されています。世界屈指のダリコレクションを誇るこの美術館において、本作の前に立つ来館者が一様に漏らすのは「想像を絶する小ささと、細密描写の凄まじさ」です。
画面サイズはわずか25.4 × 33 cm。A4用紙より一回り大きい程度しかありません。しかし、細部まで肉眼で凝視すると、水中に浮かぶ一本一本の円錐形(サイの角)の先端や、ブロック状に割れた時計の文字盤、水面の屈折までもが、拡大鏡を用いなければ描けないほど精緻な極細筆のタッチで描かれています。
現地の展示空間やアートコミュニティ、SNS等に寄せられる鑑賞者の反応を精査すると、前作『記憶の固執』を知る人ほど、次のような強い違和感と感嘆を口にしています。
「MoMAで観た『記憶の固執』はどこか夢見心地で哀愁があったが、フロリダの『崩壊』はまるでSF映画のセットか、デジタル空間のバグを見ているような不穏さがある」
「水中に沈んでいるのに、すべてが幾何学的に整列していて、崩壊というよりは宇宙の設計図を見せられているようだ」
また、美術教育関係者からは「CGやピクセルという概念が存在しなかった1950年代に、世界をブロック状のボクセル(3次元ピクセル)のように分割して描いていたダリの先見性に鳥肌が立つ」という指摘が相次いでいます。観る者に与える印象は、前作の「気だるい夢想」から、本作では「張り詰めた緊張感と知的な眩暈」へと完全にシフトしている現場の実態が浮き彫りになっています。