多部未華子が『NHK連続テレビ小説 つばさ』のヒロインに決定したのは2008年7月のことでした。1989年(平成元年)1月25日生まれの彼女は、オーディション合格発表時は19歳、クランクインおよび2009年3月の放送開始時には20歳という若さでした。朝ドラ史上初めて「平成生まれのヒロイン」が誕生した瞬間として、当時のメディアでも大々的に報じられています。
制作統括の後藤高久氏をはじめとするNHK制作陣が明かした選考理由によると、オーディションの最終選考に残った1,593人の中で、多部未華子は群を抜いて「眼差しの強さ」と「受けの芝居の巧さ」を持っていたとされます。単に明るく元気な王道ヒロインではなく、複雑な家庭環境のなかで家族を支える芯の強さと、どこかコミカルな哀愁を同時に表現できる稀有な存在感が決め手となりました。
当時の制作発表記者会見で、多部未華子は「朝ドラのヒロインになる実感がまだ湧きませんが、自分らしく自然体で駆け抜けたい」と初々しく語っていました。しかし、実際の現場は埼玉県川越市とNHK放送センターを行き来する極めて過酷なスケジュールであり、彼女自身も後のインタビューや手記で「毎日セリフを覚えることと役を生きることに必死で、記憶が途切れるほどの濃密なプレッシャーと戦っていた」と述懐しています。