急性中耳炎から乳突蜂巣炎へと進行する過程において、もっとも恐ろしいのは初期対応のタイムラグです。小児医療の臨床現場や保護者のコミュニティでは、「耳の後ろがポコッと腫れてきたので、風邪によるリンパ節の腫れだと思い込んでいた」という痛恨の証言が後を絶ちません。
都内の大学病院小児耳鼻咽喉科で緊急手術を受けた4歳男児の母親は、当時の張り詰めた状況を手記や聞き取り取材の中で次のように吐露しています。
「小児科で軽い中耳炎と言われて抗生剤を飲ませて3日目、急に耳の後ろが赤く膨らんできました。ネットで検索すると『子どもの耳の後ろの腫れはリンパ節炎が多い』と書かれていたため、次の定期受診まで様子を見てしまったのです。しかし翌晩、息子が激痛で一睡もできず嘔吐し、救急病院に駆け込んだときには『すでに骨が溶け始めており、今夜中に乳突削開術を行わないと顔の神経に麻痺が残る恐れがある』と告げられました。青ざめて手が震えました」
耳介後部には後頭リンパ節や耳介後リンパ節が存在し、風邪の際にこれらが腫れることは日常茶飯事です。しかし、リンパ節炎であれば腫瘤は皮膚の直下でコリコリと動き、境界が比較的明瞭です。一方、乳突蜂巣炎による腫れは「骨そのものから盛り上がるような硬さ」があり、皮膚の発赤を伴いながら骨膜下へ広範に広がっていくため、境界が不明瞭で浮腫状(ブヨブヨとした感触)を呈します。この質感の差異を見誤ることが、診断の遅れを招く最大の盲点となっています。