漢字の歴史の出発点である約3300年前の殷代の甲骨文字(こうこつもじ)において、馬は驚くほどリアルな絵画的文字(象形文字)として描かれていました。亀の甲羅や牛の肩甲骨に鋭利な刃物で刻まれた当時の文字を見ると、風になびく美しい鬣(たてがみ)、丸く強調された瞳、引き締まった胴体、軽やかに駆ける4本の脚、そしてフサフサとした尾がはっきりと判別できます。
古代の甲骨文字の書き方を観察すると、書記官や占い師ごとに筆跡のバリエーションがあり、頭部を大きく描いたものや、鬣の毛筋を3〜4本の細かい線で丁寧に描写したものなど、多種多様なイラスト的記号が存在していました。続く西周時代から春秋戦国時代の青銅器に鋳造された「金文(きんぶん)」になると、線の太さに強弱が生まれ、肉感的な馬のフォルムが表現されるようになります。
ここで多くの人が抱くのが「なぜ四足歩行の馬が、縦に立ち上がったような姿勢で文字化されたのか」という疑問です。これには古代中国の記録媒体が大きく関係しています。当時、文字は細長く割った竹や木(竹簡・木簡)に縦書きで記されていました。横幅の狭い竹簡に動物の横姿を収めるため、馬の体を90度反時計回りに回転させて縦長に配置する工夫が施されたのです。頭が上、背中と鬣が右(または左)、脚が下という現在の骨格は、このレイアウト上の必然から誕生しました。