佐野浅夫さんの俳優人生における最大の転機となったのが、1993年(第22部)からスタートした『水戸黄門』3代目・水戸光圀役への抜擢でした。初代・東野英治郎さんの豪快な「カッカッカ」という高笑い、2代目・西村晃さんの知性的で鋭い「クックック」という含み笑いに対し、佐野さんが打ち出したのは「ホッホッホ」と包み込むような温和な笑顔でした。
何よりも視聴者の胸を打ったのが、理不尽な境遇に耐える町人や農民の苦難を前にした際、瞳を潤ませて共に泣く姿でした。それまでの威厳ある絶対的指導者像から一転、「最も身近で人間味にあふれるおじいちゃん」としての光圀像を創出。この「泣き虫黄門」のスタイルは、単なる弱さではなく、弱者の痛みを我が事として受け止める深い慈悲の表れとして、日本中の世代を超えた支持を獲得しました。