2011年秋に襲ったくも膜下出血という悲劇から、KEIKOが歩んできた道程は決して平坦なものではなかった。突然奪われた日常と言語機能、そして何よりも歌い手としての生命線であった圧倒的なハイトーンボイス。一時は会話すらままならない状態からのリハビリは、想像を絶する孤独と焦燥の連続だったという。
奇跡の回復を支えたのは、故郷・大分での静かな生活と家族の献身的な支えだった。無理に表舞台を目指すのではなく、日々の散歩や温泉、地元の人々との飾らない会話を通じて少しずつ神経の回路を繋ぎ止めていった。近年、彼女がラジオのブースで見せる自然体の笑顔と伸びやかな声は、かつてスタジアムを揺るがした歌姫が「人間・KEIKO」として勝ち取った、あまりにも尊い勝利の証拠に他ならない。
ボイストレーニングの現場からは、発声のレンジが着実に広がっているというポジティブな声も漏れ聞こえる。往年の爆発的なハイトーンとは異なるかもしれない。だが、痛みを経た者だけが宿す中低音の温かみと深みは、表現者としての新たなフェーズの幕開けを予感させる。