彼がこれほどまでに愛される最大の理由は、単なる「強い敵」にとどまらない深い人間ドラマにある。上弦の参という絶対的な地位にありながら、彼が人間だった頃の名は「狛治(はくじ)」。病弱な父を救うために罪を重ね、そして運命の師・慶蔵と、その娘・恋雪(こゆき)と出会うことで見出した「誰かを守るための強さ」。
しかし、残酷な策略によって最愛の二人を理不尽に奪われた瞬間、彼の世界は暗転した。守るべきものをすべて失った男は、守るための拳を「破壊するための拳」へと変え、自らの名前すら忘れて鬼となった。この背景を知った時、観客は彼が吐き捨てる「弱者への嫌悪」が、実は守れなかった自分自身への猛烈な自己嫌悪であったことに気づかされ、胸を締め付けられる。