上野不忍池からほど近い閑静な住宅街に広がる旧岩崎邸庭園。かつては約1万5,000坪の敷地に20棟以上もの建物が立ち並んでいましたが、現在は洋館・撞球室(ビリヤード場)・和館大広間の3棟と庭園が保存・公開されています。
邸宅の主であった岩崎久弥は、三菱の創業者・岩崎弥太郎の長男であり、アメリカのペンシルベニア大学に留学した国際派の実業家でした。彼が迎賓館を兼ねた私邸の設計を託したのが、鹿鳴館やニコライ堂を手がけ「日本近代建築の父」と呼ばれた英国人建築家、ジョサイア・コンドルです。
コンドルが手がけた数多くの建築の中でも、旧岩崎邸は現存する最高峰の木造建築として名高く、17世紀の英国ジャコビアン様式を基調に、ルネサンスやイスラム風の意匠を融合させた唯一無二の空間美を誇ります。外観の繊細な装飾はもちろん、館内に配された英国製のミントン社タイル、トスカナ式とイオニア式の列柱、イスラム風の幾何学模様が施された木製ドームなど、東洋と西洋の美が見事に調和しています。
特に注目したいのが、2階の客室に用いられている「金唐革紙(きんからかわし)」です。和紙に金属箔を貼り、手彫りの版木で文様を打ち出して彩色を施したこの工芸壁紙は、世界でも極めて現存数が少ない貴重な文化財。黄金色に鈍く輝く壁面は、当時の三菱財閥が誇った圧倒的な財力と審美眼を雄弁に物語っています。