結論から整理すると、虫歯菌唾液感染の真相において「キスによって唾液中のミュータンス菌が相手の口の中へ移動する」という物理現象そのものは間違いなく発生します。特に舌を絡め合うようなディープキスでは、1回あたり数千万から数億個単位の口腔内細菌が互いの唾液を通じて行き来することが複数の微生物学的研究で確認されています。
しかし、「菌が移動すること」と「菌が定着して虫歯になること」は医学的に全く別の問題です。大人の口内にはすでに数百種類、数千億個もの微生物が存在し、独自の生態系である口腔内フローラと常在菌の強固なネットワークを形成しています。すでに満員電車のように常在菌がびっしりと歯の表面や粘膜を占有している大人の口の中へ、キスによって外から新たなミュータンス菌が侵入してきても、足場(受容体)を見つけて長期的に住み着くことは容易ではありません。
したがって、大人同士のキスと虫歯リスクを評価する場合、「一時的に相手のミュータンス菌が口に入り込むことはあるが、それが原因でいきなり虫歯が増え始める確率は極めて限定的である」と捉えるのが科学的に正確な見立てです。それにもかかわらず虫歯キス大人うつる理由として不安視され続ける背景には、菌の移動というミクロな事実と、実際のう蝕(虫歯)発症プロセスの混同が存在します。