物語の舞台は、寛延2年(1749年)5月。備後三次藩の藩士であった稲生平太郎(後の稲生武太夫)が、同僚との肝試しとして比熊山(比久尼山)で百物語を行ったことから始まります。この禁忌の儀式が引き金となり、平太郎の屋敷には7月1日から30日間にわたる怪異の嵐が巻き起こることになりました。
『稲生物怪録』のあらすじを追うと、平太郎が見舞われた現象は日を追うごとに激しさを増していきます。天井から巨大な老婆の顔が出現する、壁一面に無数の生首が張り付く、畳が勝手に跳ね上がる、家全体が燃え上がるような火炎の幻覚が現れるなど、日常の空間が徹底的に破壊されました。しかし、平太郎は決して取り乱すことなく、冷静沈着な態度でこれらすべてをあしらい続けます。どんな怪異にも動じない少年の鋼の精神力と、次々と奇策を繰り出す妖怪軍団の攻防は、緊迫感あふれる心理戦そのものでした。