走水神社を訪れた人々から「鳥居をくぐった瞬間に空気が一変した」「なぜか涙が溢れて止まらなくなった」という声が絶えません。インターネット上で「怖い」というキーワードが浮上する背景には、単なるオカルトでは片付けられない歴史的・地形的・心理的な3つの要因が絡み合っています。
第1の要因は、弟橘媛命(オトタチバナヒメノミコト)の入水伝説が持つ圧倒的な情念です。『古事記』『日本書紀』によると、日本武尊が東征の折、走水の海(現在の浦賀水道)を渡ろうとした際、海神の怒りによって大暴風雨に見舞われました。船が進退窮まったとき、后である弟橘媛命が「我が身を海に沈めて海神の怒りを鎮め、皇子の東征を成功させます」と言い残し、荒れ狂う波浪へと身を投じました。その直後に海は静まり返り、軍勢は無事に上陸できたと伝えられています。愛する人のために命を捧げた烈女の記憶が刻まれた地であるため、参拝者は無意識のうちにその深い愛情と悲壮感に圧倒され、厳粛な畏怖の念(Awe体験)を抱くことになります。
第2の要因は、著名スピリチュアルカウンセラー・江原啓之氏の言及による影響です。江原氏は過去の著書やテレビ番組において、走水神社を「エネルギーが非常に研ぎ澄まされた聖地」「生半可な気持ちで冷やかし半分に参拝してはならない場所」と位置付けました。この評価がメディアを通じて拡散された結果、「中途半端な気持ちで行くと怒られる」「パワーが強すぎて怖い」という言説へと変容していった経緯があります。
第3の要因は、神域特有の好転反応(精神的カタルシス)です。日頃のストレスや迷いを抱えた状態で強い静寂と自然のエネルギーに包まれると、自律神経が刺激され、一時的なめまいや感情の高揚、涙腺の緩みが生じることが心理学や環境生理学でも知られています。これを参拝者が「不思議な霊的現象」として認識することが、ネット上での噂を増幅させる要因となっています。